2026/05/03 06:47
「脳化する社会」の中で
今の日本は、どこもかしこも「脳」の言いなりです。
ボタン一つで部屋は適温、スマホを叩けば翌朝には荷物が届く。
パンに至っては、「これ、雲を食べてるんだっけ?」と錯覚するほどふわふわで柔らかい。
解剖学者の養老孟司先生は、このようにすべてが意識の支配下にある快適な世界を「脳化社会」と呼びました。要するに、私たちは「頭の中だけで完結する、ぬるま湯のような快適さ」に浸かっているわけです。
でも、たまには思いませんか? 「自分の体、最近サボりすぎてないか?」と。
そこで僕は、あえて全粒粉パンを焼きます。
それは、スマートに気取った現代社会に対する、僕なりの「おいしい、ささやかな反抗」です。

僕のパン作りは、効率や計算とは少し遠いところにあります。
石臼でゴリゴリと粉を挽き、自然の力(自家製酵母)を借りる。相手は生き物ですから、こちらの思い通りには動いてくれません。
でも、養老先生がおっしゃるように、その「ままならなさ」こそが、本来の自然の姿であり、おもしろさだと思うのです。
そんな「自然」を、ぜひあなたの食卓にも。
「パンは綺麗に食べなきゃ」なんていう頭の中のルールは、一度どこかに置いておきませんか。
……昔、「手でちぎって食べて!」なんて冗談を言ったこともありましたが、あれは「もっと自由に楽しんでほしい」という僕なりの照れ隠しです(笑)。
マナーよりも、あなたの「感覚」を主役にしてほしい。それが僕の願いです。

顎が目覚めれば、脳は静かになる
パンをひと口噛み締めれば、頭の中の忙しいお喋りはすぐに止まります。
昨今の「飲み込めるパン」に慣れきった顎は、あまりの力強い抵抗に一瞬パニックを起こすかもしれません。
「おい、これいつ飲み込めばいいんだ?」と脳が指令を出しても、顎は黙々と穀物の粒と格闘し続ける。
でも、面白いのはここからです。
必死に噛んでいるうちに、だんだんと「考える」ことが面倒になり、「味わう」ことだけに夢中になっている自分に気づきます。鼻を抜ける大地の香りと、噛むほどに溢れる甘み。
そのとき、あなたは情報の消費者ではなく、紛れもない「生き物」としての輪郭を取り戻しているはずです。

結論:たまには「不自由」を噛み締めよう
「顎が疲れる」というのは、実は最高に贅沢な身体体験です。
それは、脳が作り上げた快適な繭(まゆ)を突き破り、自分の体が「今、ここにある自然」と真っ向からぶつかっている証拠なのですから。
「便利すぎて、なんだか体が生ぬるいな」
そう感じたら、ぜひこの、ままならないパンを噛み締めに来てください。
食べ終わったあと、顎に感じる爽やかな疲労感。それは、あなたが自分の体としっかり仲直りした、誇らしい勲章のようなものです。
